神嘗祭と新嘗祭の違い~秋の宮中行事
秋が深まり実り豊かになるこの季節、日本では多くの祭りが行われます。私たちに親しみ深い秋祭りなどもありますが、秋は多くの神事が行われる時期でもあります。
普通に生活している分には聞き慣れない言葉ですが、毎年秋になると必ず行われる神事でもあります。これらがどのようなものなのか、名前がとても似ていますが、どう違うのかをご紹介していきます。
神嘗祭と新嘗祭の由来
それぞれに入っている「嘗(なめ)」という字はご馳走を意味します。まずはそれぞれの由来について述べて行きます。
・神嘗祭(かんなめさい、しんじょうさい、かんにえのまつり)
神嘗祭は宮中祭祀の一つで、その年に取れた新穀を神々に捧げ、五穀豊穣(ごこくほうじょう)を感謝する祭りです。現在は10月17日に宮中と伊勢神宮にて行われますが、天皇が伊勢神宮へ勅使を派遣し祭祀が行われます。
祭祀の歴史は古く、元正天皇の721年(養老5年)から始まったとされています。平安中期以降、応仁の乱で天下が荒れてからは神嘗祭そのものが衰退し中断されますが、1647年(正保4年)後光明天皇の時代になって勅使の派遣が復活し、以後は中断なく祭祀が行われています。1804年(明治4年)以降は伊勢神宮だけでなく、宮中でも神嘗祭が行われるようになり、近年では出雲大社などの名だたる大きな神社では神嘗祭が行われるようになりました。
・新嘗祭(にいなめさい、しんじょうさい)
宮中祭祀の中で最も大事な祭祀とされています。天皇が新穀を天地の神々に奉納し、その年の収穫を感謝し翌年の収穫を願い、またその新穀を天皇自ら食す祭りです。農耕民族である日本人にとって、五穀豊穣を感謝し願うこの祭祀は宮中祭祀の中でも最重要祭祀であると言えます。
新嘗祭がいつから行われていたかは定かではありません。『古事記』には天照大神(あまてらすおおみかみ)が行ったという神話も残っていますが、『日本書紀』には飛鳥時代から始められたとあります。中世には様々な事情で中断されて、江戸時代の元禄時代に復活しました。明治になるまでは旧暦11月中卯の日(13日から24日のいずれかに当たる)に行われていましたが、1873年(明治6年)以降は新暦になったので11月23日に日付が統一されました。この日を国民の祝日と定められましたが、1947年(昭和22年)GHQによって天皇の国事行為と切り離す目的で「勤労感謝の日」と祝日が改められました。
神嘗祭と新嘗祭の違いは?
どちらも五穀豊穣を感謝するという点では変わりません。しかし、見比べると大きな違いが出てきます。
神嘗祭は、今年収穫された食べ物を「神様が」食べる。
新嘗祭は、今年収穫された食べ物を神様も食べるけど「天皇も」食べる。
神と供食することによって神から実りの力を得て、翌年の益々の豊穣を願います。
成り立ちも行う日も非常に似ているため混同しやすい行事ですが、天皇が食べるかどうかの違いと覚えておくと分かりやすいです。
どこでどのように行われるのか?
いずれの祭事も宮中と伊勢神宮で行われますが、ここでは伊勢神宮の神嘗祭と宮中の新嘗祭についてご説明します。
・伊勢神宮神嘗祭
神嘗祭は10月15日から始まります。15日午後17時に滞りなく儀式が出来ますようにと地主神にお祈りする興玉神祭(おきたましんさい)が行われ、その後に御卜(みうら)の儀という神饌・神職の穢れの有無が占われます。
翌日16日午後22時に由貴夕大御饌(ゆきのゆうべのおおみけ)が行われます。これは由貴大御饌(ゆきのおおみけ)という神様のご馳走を奉る儀式です。御贄調舎(みにえちょうしゃ)にて生アワビを切って塩で和えたもの、鯛などの生魚、乾魚およそ15種、また野鳥や水鳥、大根や梨などの果物、そして水と塩、御飯と御餅を供え、黒酒(くろき)白酒(しろき)などの酒をもって三献におよびます。その都度、奉拝拍手をしその間奏楽があります。やがて撤饌して夜の儀式は終了します。
翌朝、昨晩と同じような儀式をもう一度行い、正午には天皇陛下が遣わされた勅使の幣帛(へいはく)が奉納されます。幣帛とは青、赤、黄、白、黒の絹織物のことです。これらの儀式が終わって夕方になると御祭神を和ませるための御神楽(みかぐら)が行われます。
以上で神嘗祭の儀式は終了です。
・新嘗祭
新嘗祭は3つに儀式に分かれています。第一段階は前日に行われる鎮魂の儀です。天皇、皇后、皇太子の御魂(みたま)を鎮め健康に長生きできますようにとお祈りをします。
第二段階は午後2時から宮中三殿、賢所(かしこどころ)・皇霊殿(こうれいでん)・神殿に神饌をお供えし祝詞を上げます。ここまでが前儀で掌典職(しょうてんしょく)という皇室において宮中祭祀を担当する部署が行います。
本儀式には夕の儀と暁の儀があり天皇と皇太子が参列します。夕の儀には天皇と皇太子が儀式用の衣装を着て笏を持ち侍従を従えて神嘉殿(しんかでん)という皇霊殿の西の建物に入ります。真夜中の闇の中で斎火が灯されて、掌典が山海の幸を神にお供えして神楽歌を奏でます。本殿の中では天皇が拝礼をし神々に感謝の言葉を述べて、お供え物に添えた箸で神饌の御飯を召し上がります。これを直会(なおらい)といいます。神饌を下げて拝礼し夕の儀は終わります。
さらに同日の夜午後23時からは暁の儀が行われます。式の流れは夕の儀と同じです。
11月22日深夜から23日にまで及ぶ大掛かりな祭祀です。
一般公開について
伊勢神宮の神嘗祭は儀式そのものが真夜中の参拝停止時間のため、その間は見学できません。ですが、参拝時間内であれば参道から見ることが出来ます。また、年齢制限や性別制限はありますが奉納行列に参加することも可能です。定員がありますので、2016年の募集については直接伊勢神宮に問い合わせてみると良いでしょう。
新嘗祭は宮中にて行われるため、一般公開はされておりません。宮中以外にも出雲大社をはじめ大きな神社では新嘗祭を行っているところもありますので、そちらは見学が可能です。
宮中で行われる新嘗祭はこれまで国民の目に触れることはありませんでしたが、2013年12月23日に天皇陛下が傘寿(さんじゅ)の誕生日を迎えたのを記念して初めて新嘗祭の様子が映像にて一般公開されました。
神嘗祭と新嘗祭の違いまとめ
このように二つの祭事を比べて見てみると、似ているようで違うものであると分かります。ですが、どちらも「今年も豊作です、ありがとうございます」と神様に感謝するお祭りですので、この季節に行われるというのはとても深い意味があるのだなぁと感じます。
大事な祭事であることは分かりますが、五穀豊穣を神に感謝すると言われてもいまいちピンと来ないかもしれません。そんな時はこう考えてみましょう。食文化が多様化した現代ですが、日本人は今も昔も食べることが大好きな民族です。美味しいものを食べられるのは、神様が美味しい作物をたくさん実らせてくれたおかげなのだと。
私自身も食べることが大好きなので、美味しいラーメンなんかを食べると「あぁー美味い。ありがたい」と思わず心の中で祈ってしまったりします。何にありがたいのかよく分かりませんが、恐らくラーメンを作ってくれた頑固親爺な店主と、材料を作った農家さん、そしてやはり神様なんだと思います。
神道とは不思議なもので、生活に密着しすぎていて宗教と言う自覚をあまり持っていない方が大半です。
折角の実りの秋です。11月23日は労働に感謝するだけでなく、実りを与えてくれた神様にも感謝を捧げてみませんか?
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